注意欠陥多動性障害(ADHD)

注意欠陥多動性障害

注意欠陥多動性障害(ADHD)は、発達障害のひとつで、近年よく知られるようになったものです。


やっと発見された障害

ADHDは近年ようやく概念が確立し、広まり、治療をするようになった障害と言えます。

それ以前にも小児精神医学の専門領域では知られていましたが、着実なデータの積み重ねと実証を経て現在は精神科や療育関係などの範囲を超えて認知されケアされるようになっています。
ADHDが疾患と認知されたことは非常に喜ばしいことだと思われます。

疾病の頻度、先天性ですので罹患率より有病率というものが高く身近にもADHDの方はいらっしゃるはずです。国や地域によっても違うと思いますが、先進国なら10%以上は軽度・重度を問わずADHDの方がいらっしゃいます。


ADHDの特性

大雑把には、先天的な注意力の障害と思ってください。
注意欠陥多動性障害(ADHD)では、以下のような特性がみられます。

  • 忘れ物やミスがひどく多い
  • 上司や同僚らとのコミュニケーションがとれない
  • 提出物の期限が守れない
  • 大事なものをよく失くしてしまう
  • 仕事や家事の段取りが悪い
  • 自分を抑えられない
  • 締切りを守れない
  • 遅刻が多い
  • 衝動的に行動してしまう。
  • じっとしているのが苦手 など

ご自身や周囲の方にお心当たりのある方は、遠慮なくご相談にいらしてください。


ADHDの症状

ADHDの3大症状は多動、衝動性、不注意で診断基準もそれに基づいて作られています。
もちろん診断基準以外の症状も多いですが、診断基準は特異性を重視して作られますからよく見られる症状でも診断基準に入らない場合があるのはADHDのみならず他の疾患でもよく見られます。

子供のADHDと大人のADHDは分けて考えるのが現状では実際的です。

注意欠陥多動性障害

子供のADHD

子供時代では多動性が目立ち、大きくなるにつれて多動性が目立たなくなり衝動性が問題になり、更に成長すると多動や衝動性が後退し不注意など注意力の症状が前景になるといわれています。そもそも子供は問診が不可能な場合が多くあります。

注意欠陥多動性障害

大人のADHD

大人の場合は多動・衝動性項目が基準を満たさず、不注意だけが診断基準を満たすのでAD/HのHを抜いてADDと呼んだりします。
ADHDはattention deficit/hyperactivity disorderですのでADDはADHDからhyper activity、すなわち多動衝動性がない場合をいいます。

ADHDの注意点

ADHDは年齢によって症状が変わります。
また生育環境によっていろいろな二次障害、重複障害が発生します。

近年激増の大人のADHDは就職後に診断されることが多いです。
これは日本の場合は社会人になるまでは不注意があってもたいした問題にならないことが多いからです。

また、子供が言うことを聞かなくても反抗しているわけでないことに注意です。
親も大人も周りもイライラして叱ったり怒ってしまう場合もありますが、それを続けていると本当に反抗になってしまう場合があります。
反抗ではなく、自信や自尊心が低い消極的な子供や人間になってしまう場合もあります。

他の神経発達障害との併存

ADHDが単発に見られる他に、他の神経精神発達の障害を合併することが多いです。
その場合にはADHDだけの問題だけではなくなります。
先天的な要素の他に、神経発達の障害があると子育て、教育、学習が上手くいかず後天的、環境因的に精神や行動に関する発達の遅れが起こる場合もあります。

神経発達障害は知能障害(知的能力障害、知的発達障害)、コミュニケーション障害、ASD、ADHD、限局性学習障害、運動障害と分かれています。

知的障害はIQなどで測られ知的能力の低さがハンディキャップとなります。
コミュニケーション障害は引っ括めると言語や発話の問題が先天的にある障害です。
ASDはコミュニケーションや社会性と興味や関心の限局や特定の物へのこだわりの強さやその他のことには極端に関心が低かったりします。
限局性学習障害は、書字や読字、計算などの特定分野の学習がうまくいかず能力が身に付きにくい障害です。
運動障害は不器用すぎたり、常同運動があったり、チックがあったり、運動に関する障害を集めたものです。

これらは重複することが珍しくありません。
また何かの発達や機能障害があっても困らず、あるいは困ることはあっても世の中で活躍している方はたくさんおられます。


ADHDの診断

診断基準は小児も大人も共通です。
診断基準では不注意9項目、多動・衝動性9項目が主要な症状診断の項目になりますが、大人と子供では症状が違うので子供では陽性でも大人では陰性であったり逆であったりすることが良くあります。

不注意9項目

(a) 学業、仕事、また他の活動中に、しばしば綿密に注意する事が出来ない、または不注意な間違いをする(例:細部を見過ごしたり、見逃してしまう、作業が不正確である)。
(b) 課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である(例:講義、会話、または長時間の読書に集中し続けることが難しい)。
(c) 直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える(例:明らかに注意をそらすものがない状況でさえ、心がどこか他所にあるように見える)。
(d) しばしば指示に従えず、学業、用事、職場での義務をやり遂げることができない(例:課題を始めるがすぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)。
(e) 課題や活動を順序だてることがしばしば難しい、資料や持ち物を整理しておくことが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない)。
(f) 精神的努力の持続を要する課題(例:学業や宿題、青年期後期および成人では報告書の作成、書類にもれなく記入すること、長い文書を見直すこと)に従事することをしばしば避ける、嫌う、またはいやいや行う。
(g) 課題や活動に必要なもの(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話)をしばしばなくしてしまう。
(h) しばしば外的な刺激(青年期後期および成人では無関係な考えも含まれる)によってすぐ気が散ってしまう。
(i) しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年期後期および成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)で忘れっぽい。

参照:DSM5の診断基準

多動・衝動性9項目

(a) しばしば手足をそわそわ動かしたりとんとん叩いたりする、まあはいすの上でもじもじする。
(b)席についていることが求められる場面でしばしば席を離れる(例:教室、職場、その他の作業場所で、またはそこにとどまることを要求される場所で、自分の場所を離れる)。
(c)不適切な状況でしばしば走り回ったり高い所へ登ったりする(注:青年または成人では、落ち着かない感じのみに限られるかもしれない。
(d)静かに遊んだり余暇活動につくことがしばしばできない。
(e)しばしば“じっとしていない”、またえはまるで“エンジンで動かされているように”行動する(例:レストランや会議に長時間留まることができないかまたは不快に感じる;他の人達には、落ち着かないとか、一緒にいることが困難と感じられるかもしれない)。
(f)しばしばしゃべりすぎる。
(g)しばしば質問が終わる前に出し抜いて答え始めてしまう(例:他の人達の言葉の続きを言ってしまう;他の人達の言葉の続きを言ってしまう;会話で自分の番を待つことができない)。
(h)しばしば自分の順番を待つことが困難である(例:列に並んでいるとき)。
(i)しばしば他人を妨害し、邪魔する(例:会話、ゲーム、まあは活動に干渉する;相手に聞かずにまたは許可を得ずに他人の物を使い始めるかもしれない;青年または成人では、他人のしていることに口出ししたり、横取りすることがあるかもしれない)。

参照:DSM5の診断基準


ADHDの治療

子供にせよ大人にせよADHDに薬物療法は有効です。
注意力、意識レベル、覚醒度、集中力を上げる薬はADHDに効果があります。

発達障害は他の人よりもその機能や能力の発達が遅いか身に付きにくいだけで、年齢とともに改善、あるいは消える場合があります。
例えばADHDの患者さんに注意力を改善する精神刺激薬を使用していると、注意力が上がった状態や高い注意力下での行動パターンが身に付き、服薬が必要なくなる場合が多いです。

特に合併障害や併存障害、二次的障害などなければ薬物療法だけでも自然に行動や習慣が変容して治ってしまう場合もあります。

注意欠陥多動性障害

大人の場合にはメモ付けやスケジュール管理や色々なことを習慣づけてもらう行動療法による行動の変容をするように訓練してもらうのも大切です。

ADHDの治療で大事なこと

より深く患者さんを診ることは、より広く社会資源のみならず社会全体への目くばせを行うことになります。
しかも広く見るだけでなく時間軸も長く見なければいけません。
専門医でなければ気付かないうちに、新しい行政や民間サービスが始まっている場合もあります。

小児の治療について

子供の場合では薬物療法により癇癪や暴れる、自傷等が改善しますが、問題は子供の場合は薬が飲めない場合があることです。
また子供の場合は意志疎通が難しく、ADHDだけでなくいろいろな問題がありそれらが絡まっている場合が多いです。

また親御さんとの意思疎通が難しい場合も多いです。
小児専門の精神科医は数が少ないという問題もあり時間や頻度的に十分な医療を受けられない場合が少なくありません。
小児専門の精神科医でなくても小児を診る精神科医の数は増加傾向ですが、やはり小児は見ないと決めている精神科医も依然多いようです。

大人の治療について

大人のADHDは衝動性などはなく、不注意が問題になることがほとんどです。
そして薬物を使用するとおとなしく、まじめで、事務をこなせ、落ち着いて見えます。
ただせっかく行動力や読字の発想力を持つ人を、事務処理や実務を淡々とこなせる落ち着いた人間にしてしまっていいのかという点がある意味で実存的な問題としてあります。

精神科の疾患はこの様に治療によって良い所も消えてしまう場合もありますので、実存的な問題が生じやすいですし、それについて患者さんと最初から相談しておくのも大切です。
障害が治ってもその人の長所や強みも消えてしまうという事になれば、患者さんの幸福度を逆に下げてしてしまう場合もあるかもしれないからです。

合併障害や併存障害、二次性障害を同時に見ることが大切ですが、ADHDやその他の精神的な問題が軽症に見える場合でも自信や自尊心の低下、ひいては世の中に対する悲観的な見方、つまり他者や社会に対する信頼感の脆弱性に対処しつつ、自他への信頼を育てていくことが大切です。