やさしい生理学

2022/02/21

はじめに

我々は生きています。

ですから生きることに関する知識が豊富な方がいいでしょう。
生きるなら健康に生きたいものです。

そのために生の理を知っておくといいでしょう。
ですから生理学を勉強しておくと便利です。

生といっても色々な観点からとらえられるでしょう。
社会科学や人文科学的に考えられる生もあるでしょう。

ここでは生理学の簡単な解説をします。
生理学の中でも中枢神経系は複雑で研究が難航しています。
ここでは“細胞の生理”“ホメオスターシス”の解説をします。

ホメオスターシス

ホメオスターシスは“恒常性”と言う意味です。
生きるためにはある範囲内の環境の中にいなくてはいけません。
生命を維持するのに必要な環境が失われると健康を壊すか死にます。

さて、生きるとは何でしょう。

「生きる」には色々な定義があるかもしれませんが、生理学的にいうとある必要条件があります。
生きるためには細胞が生きていなければいけないということです。

我々は人間ですから人間で限定して考えましょう。
人間は多細胞生物です。
生き物には人間のように多くの細胞でできているのではなく一つの細胞でできている単細胞生物もいます。
いずれにせよ生物とは生きている細胞からなっています。

水生の生物なら空気に接しず生きていくことができるでしょう。
細胞は空気直接に接しては生きていけません。
細胞は細胞外液に浸されている必要があります。

生命は海で誕生したと言われます。
その時は細胞の周囲は海でした。
その後生物は進化して多細胞生物が生まれます。
そして一部が陸上に進出します。

細胞が海を離れることになりました。
しかし細胞が海を離れても細胞は空気に直接接しては生きていけないので細胞の周囲を海のような液体に囲まれている必要があります。

我々多細胞生物の細胞は今でも液体に囲まれています。
皮膚は空気と接しているではないかと言う反論があるかもしれません。
気道や消化管も空気と接しているではないかという反論もあるかもしれません。
多細胞生物は普通、体の内外を上皮細胞と言う細胞のシートで境界されています。

皮膚も上皮細胞で覆われていますが、上皮細胞は直接空気とは接していません。
上皮細胞と空気の間には表皮と言う皮膚の上皮細胞の死骸に覆われています。
空気と直接接しているのは表皮であって上皮細胞ではありません。

上皮細胞の下には基底膜がありその下には真皮というものがあります。
上皮細胞と言うシートは上は細胞でない表皮と言うシートと下は基底膜とその下の真皮に挟まれて存在しています。
表皮の内側まで体液が満ちているため上皮細胞もやはり液体に囲まれています。

消化管や気道はどうでしょう?

人間はトポロジカルにいうとちくわのようなものです。
人間のご先祖さまである線虫のような生き物はまさにちくわのような筒と言っていいでしょう。
その子孫である人間の気道や消化管はちくわの内腔が貫入して複雑化したものと見ることができます。
ですから気道も消化管も内腔は体の外であり空気と接する場合があります。
気道や消化管もやはり上皮細胞のシートで覆われていますが粘液に覆われた粘膜となっており空気と直接接するのは粘液であって上皮細胞ではありません。

粘膜上皮の下はやはり体内なので体液に満ちています。
粘膜上皮細胞もやはり空気に接することなく液体に囲まれているのです。

ですから人間の生きた細胞は液体に囲まれています。

ホメオスターシスを色々な意味に用いる場合があるかもしれません。
その中でも最も大切なのは細胞を囲む細胞外液のホメオスターシス(恒常性)になります。

体細胞と生殖細胞

我々の体は色々なパーツでできています。
それぞれどのような機能を持っているのでしょうか?

大前提として細胞は大きく2つの種類に分かれます。
体細胞と生殖細胞です。
生殖細胞は精子と卵子で体細胞はその他です。
体細胞と生殖細胞は機能が大きく異なります。

ざっくりいうと体細胞はホメオスターシスを保つためにありますが、生殖細胞は子孫を残すためにあります。
生殖細胞は体細胞なしでは生きていけませんが、体細胞は生殖細胞なしでも生きていけます。
生殖細胞はホメオスターシスを保つ機能はありません。
生殖細胞は体細胞に一方的にお世話になっています。

これをどういう風に意味付けするのも自由ですが、一つの解釈として体細胞、あるいは体は生殖細胞のためにあるとも解釈することができます。
あるいは生殖細胞を適切に機能させることができなかった生物は生き残れなかった、とも言えます。

動物機能と植物機能

体細胞と生殖細胞と言う区別と共に、生理学を動物機能と植物機能という分け方で見ると分かりやすくなります。

動物機能とは動くことと感じることでシンプルに言うと筋肉、すなわち筋細胞と神経、すなわち神経細胞に関する生理学です。 植物機能とはそれ以外の生きるための機能です。

筋肉がないと人間は動けません。
どんなことを考えていたとしてもそれを表現できません。
はたから見ると動かないでそこに存在しているだけに見えます。

外界と能動的に関わるには筋肉が必要で、受動的に刺激を感じるためには神経が必要になります。
動くことも生命維持には必要かもしれませんが、動かなくても体は自律的に生命維持活動を行います。
この自律的な生命維持活動を植物機能としましょう。

この生命維持活動はホメオスターシス維持のために行われます。

海と細胞外液とホメオスターシス

生殖細胞が子孫を残したり、筋肉や神経で世界と関わるのがもしかすると生命の目的かもしれませんし、ホメオスターシスはそのための条件に過ぎないのかもしれません。
しかし生殖細胞も筋細胞も神経細胞もホメオスターシスがなければ生きられません。

全ての細胞はホメオスターシスによって生きています。
ホメオスターシスは生きるために必要とこの様に漠然と語られる一方で、より明確にホメオスターシスを示すことができます。

そもそも生命を維持するとはどういうことでしょう。

最低限必要な事は細胞を生かし機能を発揮させることです。

そのためには何が必要でしょう?

細胞のホメオスターシスを維持する必要があります。

細胞のホメオスターシスを維持するには何が必要でしょう。

細胞は細胞外液の中で生きています。
つまり細胞のホメオスターシスを維持するためには細胞外液のホメオスターシスを維持する必要があります。

細胞は海の中で生まれました。
陸上に進出する時もやはり細胞の周りには海が必要でした。
ですから陸上に海を持ち込みました。

多細胞生物の体内を満たしている海が細胞外液です。
細胞は細胞外液のホメオスターシスが維持されないと正常に機能することができません。
細胞外液の恒常性とは細胞外液の物理化学的性質をある範囲に収めることです。

血液、血管、循環

血液は血球と血漿からなります。
血球は赤血球、白血球、血小板で血漿は血管を流れるそれ以外のもの、すなわちいろいろなものが混じった溶液です。
体中を血管が巡っていて一部を除いて血管は閉じており血球が血管外に出ることはありません。

循環は大きく2つに分かれます。
大循環と微小循環です。

大循環は血管内を血液が巡ります。
微小循環は末梢の毛細血管で行われる血漿の水分や成分が血管を出て血管外を出て再度血管内に戻る循環です。
大循環でも微小循環でも血球成分は血管の外に出ません。
微小循環で血管を出た血漿の液性成分が細胞外液のホメオスターシスを維持します。

血管の外に色々な機能を持つ細胞や組織や器官や臓器があります。
血管外の細胞の間にスペースがあれば細胞間質といい、間質は線維と基質からなります。
線維はコラーゲンでタイプの違いはありますが人体で最も多いたんぱく質です。
間質はヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸、骨や軟骨や歯であればハイドロキシアパタイトなどの無機的鉱物質の成分が含まれます。

胴体は何のために存在するか

人間の臓器を考えてみましょう。
いわゆる臓器は細胞外液のホメオスターシスを維持するために存在します。

臓器は胴体に収納されています。
胴体は胸やお腹です。
細胞外液のホメオスターシスを維持する必要がなければ臓器は必要ありません。
人間は胴体のない生き物になるわけです。

心臓は血液を流すための臓器です。
肺は血液に酸素を吸収し二酸化炭素を排泄するガス交換のための臓器です。
肝臓は体の化学工場で、結晶内の化学成分を作ったり壊したり変化させたりします。
また胆汁を消化管に分泌します。
これにより結晶内の化学成分の排泄の一部を担います。

腎臓は血漿をろ過して一旦体外に排泄し必要なものを再吸収したり不必要なものを更に分泌することで排泄します。
膀胱はおしっこを貯めるだけです。
消化管は血液の成分になる栄養素を吸収します。
膵臓は血糖調整や消化液の分泌を行います。
脾臓は血球成分を破壊したり、免疫に関わります。

免疫にかかわる器官は多くあります。
ついでに骨髄は血球成分を作ります。
筋肉や脂肪組織、皮膚、細胞間質を臓器と言う人もいます。

これらの臓器の役割は全て血液の生成や調整や排せつにあります。
血液と血管を介して全部の臓器がつながっているのでこれはある意味当たり前です。

細胞外液の恒常性

血管外の細胞の周りを満たしている細胞外液の恒常性とは何でしょうか。
物理的、科学的に細胞外液をある範囲の状態に維持することです。

生体とは生化学的に言えば化学反応より成り立ちます。
化学反応には触媒が必要でたんぱく質が触媒の働きをしますが、至適PHと至適温度があり、温度やPHが大きく変わると生体内のあらゆる化学反応が変化します。

圧力は体積やエンタルピーなどと共に各種自由エネルギーを定義するものです。
自由エネルギーが現象するように物理化学的現象は進行します。

浸透圧が変わると生体内分布、例えば生体内外での体液組成や成分濃度の変化が生じます。
細胞内外の電解質濃度差は生体のエネルギーの30%を占めるほど重要です。
細胞内外では電位差を作る必要もあります。

細胞外液の濃度は太古の海水の組成と似ているともいわれます。
海はあらゆるものが濃縮するので時間が経つとナトリウム濃度が高くなります。
細胞外液のナトリウム濃度は低いので点滴液のナトリウム濃度はなめると薄く感じます。
血をなめても海水程はしょっぱくないわけです。

ちなみに海水や淡水を行き来する種類の魚は細胞外液の濃度維持に多くのエネルギーを生じます。

おわりに

ホメオスターシスと言う言葉を初めて使ったのはクロード・ベルナルドという生理学の父ともいえる偉大な生理学者です。

ベルナルドがどういう意味でホメオスターシスと言う言葉を使ったのかは知りませんが、生理学を学ぶ際には「ホメオスターシスとは細胞外液の恒常性である」という見方を覚えておくと便利です。

細胞外液の恒常性を維持するためにどのような役割を話しているのかと言う観点で体の各部分、各臓器を理解すると生理学が非常に分かりやすくなります。

我々は体液の状態に非常に鈍感です。
おそらく意識すればある程度は敏感になれると思いますがそれでも限界があるでしょう。

のどの渇きや脱水、電解質異常に気が付くのが遅れます。

自分の感覚に頼らず定期的に補液など行うのが1つの解決策になります。
体調がよくないと感じる時には往々にして単なる体液異常である場合がしばしば見られます。

我々は母なる海を体内に宿している、あるいは宿さざるを得ない存在として体液、ひいては体液のもととなる自然や生活習慣に気を使うようにするとよいかもしれません。