コロナとうつ(コロナうつ)

コロナとうつ

2019年末から始まったcovid-19と呼ばれる新型コロナウイルスによる世界的コロナ禍も2022年3月現在2年以上続いています。
日本では現在でも緊急事態宣言や自粛などが感染者数が増加するたびに繰り返されています。

2021年度は夏季オリンピックが東京で行われその間自粛が強化され、2021年末からのオミクロン株は感染性の強さからか、子供がコロナを媒介しているということをはっきりさせたためか、PCR検査がより容易にできる様になったためか、冬季だからか、その他の理由か分かりませんが自粛期間がかなり長くなったようです。

コロナうつ

テレビやネットなどのメディアでは「コロナうつ」というメンタル不調が取り上げられているようです。

学界や政府や国際機関の使用する正式な精神科疾患分類ではありませんが、このような医療の関係者ではない人々やメディアが感じたり気が付いたりしたメンタルの不調が、注目され命名されたりすることはそれなりに意味があることです。

医師などの専門家が「コロナうつなんかはない」といってこういう声を無視するのは権威主義で独善的ですし、大切な情報はどこから入ってくるか分かりません。

コロナとうつ病の関連性

コロナのせいで経済的な問題や特に地方での自粛を無視し行動などに対する非難によって二次的な原因でうつ病が悪化するケースが見られます。

そもそもうつ病の診断には病因は問わないのでコロナでうつ病を発症しようともコロナうつ病と命名するのは安易で、堂々とその様なものを主張すると精神科医の仲間から怪訝な目で見られる傾向が最近はあります。

コロナでうつ病が発症はしなくても、もともとあるうつ病の修飾疾患因子として働いた可能性はあります。

うつ病が悪化したケースもありますが、直接のコロナ不安というよりはもう何段階か間接的なステップを踏んでいるように見えます。


新型コロナによるうつ病の発症

新型コロナによる明確な新型コロナウイルスによるうつ病の発症は私の知る限りではコロナ禍の初期に見られました。

ある病院でコロナウイルスが発生し、その対応を任されたスタッフにうつ病が発生しました。
私はその病院の院長に依頼されてスタッフたちのカウンセリングや診療を行いました。
中には労災認定されて、今でも診療を続けている患者さんもいらっしゃいます。

感染を広げないために病棟でコロナ発症が見つかった時に患者と接触している可能性のあるスタッフが、その後の治療でもまたコロナ患者さんの治療やコロナ患者さんを集めた病棟に急に専従することになったためです。

病院の管理側もコロナに対する対応を手探りで行わざるを得なかったのですが、その負担が特定のスタッフに集中しました。

高齢者が患者のリハビリ型病院だったので、冬季はただでさえ発熱や肺炎などが増え死亡率が高くなるのが老年期医療では常識です。

その上新型コロナに感染した患者さんを限られた人数で見ざるを得ませんでした。
そして緊張した状況でみなさん頑張って対応したのですが、患者さんで死亡例もでました。

これは徒労感と言うのでしょうか。
元気を奪われるようながっかりした気分になります。
結果、事態が済んだ後に燃え尽きてしまうスタッフが続出しました。

コロナに対する恐怖

また若くても免疫力が低下すれば重症化しやすいのも分かっていましたので、まだ得体の知れなかったコロナに対する恐怖もありました。

そして負担が一部のスタッフに、仕方がない面があったのかもしれませんが強要されるような形で集中したので対する病院の上層部に対する理不尽感や憤懣がありました。

こうしてスタッフの中には適応障害などのある種の心的外傷性障害などの方もいらっしゃいましたが、うつ病になり診療が必要になった医療従事者が発生しました。

これは一例ですがこの2年余りの間に診療を通して、他の医師から聞いたコロナ関連のうつについて考えてみます。


コロナ関連のうつと影響

コロナとうつ病

コロナの流行初期には私のようにコロナ対応した人々のうつ病発生が見られたようです。
病院によっては職員が大量にやめてしまうなどの問題も発生しました。

これは医療機関だけでなく、企業でも保健所でもコロナに関係する部署で責任を負う立場の人で、過重な対応を強いられた人ではやはりうつ病になる人が見られました。
責任感が強く几帳面なタイプが多く、これは日本の古いうつ病概念に比較的合うものです。

時間が経ちそうした人たちのおかげでコロナ患者発生時の対応の手順ができてくると初期に観られたようなコロナうつは減っていきました。

ただ私は比較的都心部で診療を行っていますが、地方などではまた違う反応があったようです。
自粛要請を無視したとみられるような行動に対してはコロナ村八分みたいな傾向が強かったようです。

これは都市部の人々でもそうで、コロナで自粛しなかったりマスクしなかったりするような行動には仕事場でも公共空間でも厳しい目が向けられたようです。

コロナと家庭

コロナで虐待は増えています。
虐待に限らずコロナで困った目にあっている、あるいはあった家庭は大量です。
これは色々な形を取ります。

コロナによる養育困難である「コロナ養困」が典型的です。
親がコロナになってしまって、養育者がいなくなってしまう場合があります。

また、コロナ自粛で家に閉じ込められればフラストレーションはたまります。
もともと機能不全家族であったり、家が狭ければフラストレーションはより大きくなるでしょう。

日本人はおとなしかったですが、世界中で家に閉じ込められるフラストレーションに対して外に出られるようにするべきだというデモンストレーションもいろいろな考え方の下に行われました。
ある意味軟禁状態ですので、拘禁反応という閉じ込められた際に発生する様々な反応が出ます。

色々な症状がありますが、第一波時にはホテルに隔離された患者で、裸になってホテル中走り回った患者さんがいらっしゃいました。

コロナと近隣トラブル

近隣住民とのトラブルはコロナで増幅されたように思います。
特に騒音問題や、小さな借家で大家が一緒に住んでいるような場合です。

騒音問題は特に生活保護の決まった額での賃貸物件だと防音設備が弱く、コロナの間は問題が増えているようです。

第一波は子供の自粛があり家族全員が家の中に詰め込まれたりしましたので大変なフラストレーションが発生しました。
特に大人の女性のフラストレーションが強かったようです。

コロナと虐待

コロナという言葉は直接出てきませんが虐待の件数が増えています。

歌舞伎町の広場で若者が集まる新宿の東横キッズは直接はコロナに関係ありませんが、間接的には関係あるでしょう。
禁止されている時間帯に中学の子がいて児相に連れてこられることになります。
警官が「どこから来たの?」を声をかけて、そういう子供に聴いてきます。
そして主訴は非行で警察が児相に連れてきます。

その場合「家にもどろうか」と言われて家に連れて帰ります。
問題がなければそれでおしまいですが、児相案件と判断すれば介入を行います。

小児、思春期では精神・心理的な問題に対して大人のようにはっきり診断を行わないことが多いので、小さい子供がうつ病と診断されることはほぼないと思いますが、感情豊かな子供では抑うつや憂うつを抱えている子は多いでしょう。

経済的な影響

コロナのような大きな経済・雇用の変動が招じる場合にはもともと経済的に苦しい層を直撃します。
家庭や夫婦関係でなく親子関係で見ると、コロナ養困の問題があります。

その他いろいろありますが、例えばテレワークで親が家にいて、子供とすごく時間が長くてフラストレーションが増える流れがあります。
子供へ大声でどなってしまったり、児童相談所虐待対応ダイヤル「189」に通告をされてしまったり、自分で叩いたと親自身からの相談を受ける事が自動相談所では増えました。
収入が減ったり、親自体が将来に不安を感じてしまって、それがストレスになって子供にあたる例があります。

今までコロナ関係なく養育で悩んでいた方たちがコロナに入ってふつふつ爆発している感じがあります。

コロナとメタボリック症候群

コロナ下では体重増加や筋肉量の低下、体脂肪の増加が見られます。
特に冬場は代謝異常で高血糖、糖尿病の発症、脂質代謝異常や脂肪肝などの発症や悪化する人が増えています。

精神疾患自体が生活習慣病の側面がありますが、体の問題も見過ごさないようにするのが大切です。

コロナと不安障害

コロナで目立ったのは不安や懸念の拡大と増大です。
様々な神経症性障害、パニック障害や広場恐怖、社交不安障害、強迫性障害などにはよくも悪くも影響を与えました。

不安も特に初期のうつ病では必ず見られると言っていいのですが、疾患特異性がなくうつ病以外でも起こりますので感度も特異度も陽性反応的中率も低いのです

不安が病態の主体になるのは精神病よりは神経症と考えられてきました。
精神病でも不安は普通に見られますが、精神病は不安以外の症状が入院が必要なほどひどくなります。

年配者や年配者と同居している家族がコロナをとても不安がるケースも見られます。

コロナでは在宅勤務が拡大したので自分からいろいろな不安のトリガーとなる事象を回避する必要がなくなりました。
ですから社会的活動の減少が顕著になった方がたくさんいらっしゃいます。

災害とうつ

急に国へ影響を与える規模の大災害などは、精神科疾患に悪影響を及ぼすとは限りません。
むしろある種の疾患では症状が改善や安定化することがあります。
統合失調症などです。

また社会的な災害時に目立つのは躁状態や不安です。
東日本大震災の初期には大臣が躁状態になってメディアと多弁、興奮、脱抑制状態になり「お前の会社をつぶす」などと言ってトラブルが起きたことは記憶している方もいるかもしれません。

コロナの初期でも大学教授が公的な許可なくコロナが発生した豪華客船に乗船して、ネットで配信して問題になったことは記憶に新しいかもしれません。

お葬式の時に軽いそう状態になっている人を見かけたことがある人はいらっしゃるかもしれませんが、これもその一種かもしれません。

これを精神分析学では「躁的防衛」と呼ばれる防衛機制と考えることがあります。
躁転することで気分修正を行うのでしょう。

「東日本大震災うつ」という言葉はないと思いますが、東日本大震災後東京で診療している先生方は福島出身の患者さんが増えたと感じた方は多いと思います。
ただそういう方は、自分から東日本大震災が精神科受診のきっかけとおっしゃらない方がたくさんいらっしゃいました。

多分災害の直後の負担でうつになったような方々はまず地元やその周辺で診療を受けたのかもしれません。


コロナうつの治療

オーダーメイド医療

患者さんの個々の状況や病状をしっかり聴取し、理解に努めることが大切です。

せっかく世の中が「うつ病」という言葉を使わず「うつ」という言葉を使ってくれています。
「うつ病」というと病気や障害、症、という疾患単位のようなものを差しますが、「うつ」だけで言えば症状だけであり「うつ症状をともなう症候群」という風に判断できます。

コロナうつ病ではなくコロナうつ症候群と見た場合には、曖昧ですが広く使えます。
精神科も早期発見早期治療が予後にも経過にも転機にも大切ですから、症状がある時にはすぐにかかって症状を消してしまった方が後遺症が残りにくくなり、治療終了に至り易くなります。

コロナ症候群といってもいろいろな症候群をまとめたようなものとした方がいいでしょう。
コロナが何らかの形でからんでうつ症状を持つものと考えると、いくつかには類型化はできても人によって各人各様ですから、個別的なオーダーメイド医療が必要になります。

早期受診・早期治療と診断の問題

精神科の疾患の診断には経過が大切ですので発症後の期間や一日の中での時間や発症後の中で何日症状を認めたかを聞き取ります。

しかし最近、特に都市部では早期受診早期治療が進んでいるので重症化する前に、例えばうつ病の診断基準を満たすほどに症状が悪化せず適応障害の間に診療をはじめてしまうことが一般的になってきています。

現実に仕事や景気に悪影響が出ている以上、経済的ひっ迫や仕事や経営で追い詰められた人々のうつ的気分もコロナうつとしてとらえ、コロナうつを広くとらえるのは、10年以上前であればともかく、今は積極的に行っていく方がいいのではと筆者は考えています。

コロナの直接的な打撃によりうつ病になっている人が増えている地域や立場の人はあるのかもしれませんが、メディアでも拡散されやすいような大衆的なテレビやネットの世界で珍しい病態として注目されるようなコロナうつみたいなものは医学的にはないと思います。
ただコロナに関連してうつ的になる人は間接直接問わずいるはずですし、一般の、あるいはネットでもテレビでもそれを取り上げることは社会の連帯や紐帯のために意味がある事だと思います。