低血圧症

2022/03/07

低血圧症 隠れた健康の問題

低血圧の問題

低血圧は健康感や生活の質に大きな影響を与えますがなかなか医療で取り上げられにくい問題の1つです。

低血圧の症状は朝が起きられない、いつもあまり体調がいい感じがしない、冷え性である、冬が苦手、頭痛やその他はっきりしない疼痛が出やすい、生理や生理前がきつい、低気圧に弱い、自分が虚弱であると思う、立ち眩みしやすい、姿勢を変えたときに頻脈になり易いなどです。

低血圧には先天や後天の心疾患など特定の疾患の症状として低血圧症が起こる場合や向精神薬などの副作用などはっきりした原因がある場合もありますが、体質や生活習慣などを含めてあまりはっきりしない理由での低血圧症で困っている人が多く見られます。

ここではその様な場合の低血圧症を取り上げます。

高血圧は急性でも慢性でよく研究されて健康の話題にも取り上げられます。
しかし低血圧は著しく血圧が下がって生命維持に支障を生じるほどの低血圧であるショックや若年者の規律性調節障害などを除くと医療的問題として扱われにくいのが現状です。

しかし低血圧が心身不調の原因であることはしばしば見られます。

低血圧が心身や生活の不調の原因であり、それに対する対処や薬剤などの治療法もありますが、専門の医療機関になればなるほどあまり大きな問題と見なされない傾向があり低血圧対策をしないまま漠然と生活している方が多いようです。

往々にしてぼんやりとした心身の不調は心療内科や精神科に紹介されたりドクターショッピングの果てに気分障害、適応障害、不安障害、身体表現性障害などと合わさって行き着くことも多いようです。

低血圧症の病理や治療や予防を概観してみましょう。

血圧とは

血圧とはそれを使って循環の状態を把握するためのものです。
圧力には様々なものがあります。

圧力には様々なものがあります。
血圧、気圧、水圧、電圧などです。

圧力は力です。
力は運動と静止を支配するものです。

力が分かり抵抗や粘性などが分かると血、空気、水、電気などが静止しているか、等速運動しているか、加速度運動しているかなどが分かります。

等速運動は同じ速さで動いている運動で、加速度運動は速さがどんどん速くなっていったり遅くなっていったりする場合の運動です。

血圧と言うと上と下の血圧、上の血圧とは収縮期血圧のことで下の血圧は拡張期血圧を併せて表記します。
普通は座った姿勢や寝た姿勢で心臓の一を二の腕に合わせた姿勢で二の腕の動脈血圧を測ります。
二の腕で測るのは心臓から拍出された直後の動脈圧に最も近い血管で、かつ血管内圧を測りやすいのが二の腕であるからであると思われます。

 本当は心臓から拍出された直後の血圧を測れればいいのですが、日常診察では無理なのでそれに一番近い血圧を測るために二の腕で血圧を測るようになったと考えられます。

血圧を測る位置を心臓の高さに合わせるのはそうしないと重力の影響で血圧の値が大きくなったり小さくなったりしてしまいます。
例えば手を上げて二の腕を心臓より高くすれば血圧は高く測定されます。
逆に逆立ちして心臓より低い二の腕の位置で血圧を測定すれば血圧は高く出るかもしれません。

世の中には重力というものがありますので立っていれば体液は下肢に溜まりますし、逆立ちすれば血液は上肢や頭に溜まります。
体の下の方の血管内圧が高くなるわけです。
ですから心臓と二の腕の高さを併せるのがポイントでこれを合わせないと適当な血圧測定になってしまいます。

血管は体中にありますが血管内圧はその場所ごとに異なります。
頭のてっぺんと手の先、足の先では姿勢によっても顕著に血圧は異なります。

血圧=血管内圧ではなく、心臓と同じ高さの二の腕の太い動脈の血管内圧だけが血圧と言われる点に注意が必要です。

圧力について

力学と共にニュートンが発見したのが万有引力です。
重力というものがあり、空気にも水にも重さがあるので下にいくほど気圧も水圧も高くなります。
我々の生活する地表付近は大体1013HPa(ヘクトパスカル)くらいでこれを1気圧と言います。

これは1気圧と呼ばれます。

血圧ではヘクトパスカルではなく別の単位を用います。
mmHg(mm水銀柱)という単位を使います。
1013HPaは760mmHgと同じです。

ちなみに海やプールでは水面は1気圧ですが10m潜ると2気圧に、20m潜ると3気圧になります。
つまり水に10m潜るごとに1気圧ずつ圧力が高くなります。
逆に水面で1気圧ということ宇宙の真空より下の大気全ての重さが1気圧であるということです。

大気は1万メートル上の大気まですべて併せて1気圧で水は10mの深さで1気圧になります。
同じように水銀は760mm=0.76mの高さだけで1気圧になります。

まとめると大気は1万mで1気圧、水は10mで1気圧、水銀は0.76mで1気圧になります。

空気や水より水銀のような比重の高い物体の方が簡単に小さい(長くない)器具で気圧を測れるので昔は気圧や血圧を測るのに水銀柱が使われていました。
もうちょっと細かい点があるのですが大雑把にはこのぐらいで覚えてください。

ちなみに富士山の山頂は0.6気圧、エベレストの山頂は0.6気圧位になります。

素潜りでは人間は100mから200mが世界記録だったと思いますので、11気圧から21気圧に潜れる可能性があることになります。

ちなみにクジラやイルカはもっと深く潜れます。
1000m~3000m潜れる種も存在します。

逆に高地はなれるのに高地トレーニングで高地順化をしなければいけませんがそれをしてもエベレストの山頂位がちょうど短時間しかいられない生存限界ではないかと言われています。

これは圧力の問題と言うよりは酸素分圧、言い換えると酸素の薄さの問題になります。

ちなみに旅客機は1万mくらいの上空を飛びますが、これは機体内の圧力を調整しているので長時間のエコノミークラスのフライトでも大丈夫だったり、大丈夫じゃなくてエコノミークラス症候群や航空性中耳炎を発症してしまったりするわけです。

ちなみに低圧環境では体調不良がでやすいですが、高圧環境では適度であれば逆に体調がよくなる傾向があります。
入浴が気持ちいいのも温度と共に体が水圧で圧されることが関係していると考えられます。 素潜りやスキューバダイビング、プールでの潜水でも心地よさを感じることに思い当たる人は多いのではないでしょうか?

圧力と血圧について

力学では力の運動と質料の方程式f=ma、電磁気学では電圧と電流と抵抗の式V=RIを習います。
これは物が動き出すためには力が必要であり、動くことに抵抗が働く際には力とエネルギーが必要であることを示します。

同様に血流がある範囲内で安定して流れるためには血管抵抗などを考えると心臓からの力やエネルギーの供給が必要です。
逆に心臓が止まると血管内圧は周囲の大気圧とだいたい同じになります。

血圧には上の血圧と下の血圧があります。
上の血圧は収縮期血圧、下の血圧は拡張期血圧があります。

収縮とか拡張という言葉は心臓の拍動中、心臓が収縮したり拡張したりしている時の血圧を指します。

心臓の高さの二の腕の太い動脈の血管内圧である血圧だけでなく他の部分の血管の血管内圧にも最大血管内圧と最小血管内圧が存在しています。

もう一つ、血圧の注意点は周囲の大気圧を基準として、周囲の大気圧を0として図られることです。
例えば血圧が135/85であれば、実際の血液の圧力はだいたい(760+135)mmHgと(760+85)mmHgとなります。

この血圧は二の腕の太い動脈の血管壁から皮膚の間の組織で減衰し、空気と接する皮膚の部分では皮膚を体内から押す力と皮膚を気圧が推す力が釣り合っています。
そのため皮膚が動いているように見えないわけです。

仮に皮膚の部分で体内から皮膚を押す力が気圧より大きければ皮膚が外側に運動する、すなわち膨張するような運動が生じます。
逆に体内から皮膚を圧す力が気圧より小さければ皮膚は体内の向きに運動し二の腕や体が収縮していくような運動が生じます。

仮に実際の血圧が135mmHgであったり85mmHgであるとすると二の腕の周りの気圧が約760mmHgですからニュートンの力の式f=maから運動が発生し血管が収縮するように運動します。

実際にはそういうことがおこらないのは、約760mmHgの値が基準値0として隠されておりつり合いがとれているため体の膨張も収縮も感じません。

これを理解し易くするために皮膚内外の圧力が突然釣り合わなくなった場合を考えてみましょう。
飛行機や宇宙船で突然外に放り出された場合には人体は膨張します。
例えば密封した容器や袋を山登りに持って行ったときに山の上で容器や袋が膨張しているのを経験したことがある人がいるかもしれません。
これも同じ事です。

逆に体が収縮する場合を考えてみましょう。
素潜りで潜水する場合を考えます。
副鼻腔などの空気の入っている体腔から空気を追い出したり訓練すれば100m以上潜水することも出来ます。
この場合、体の柔らかい部分は大きな水圧を受けるため収縮します。

上下肢やお腹を考えてください。
一方胸部や頭部は肋骨や頭蓋骨などに支持されて収縮の度合いが小さくなります。
これにより上下肢や腹腔内臓器などは圧迫、収縮し血流や体液の流れの抑制、すなわち循環抑制が起こります。
他方で胸部や頭蓋内は収縮の程度が小さいため血液や体液の循環が心肺と脳に集中します。

後でも触れますが循環の大きな目的の1つは脳の血液循環を安定して維持することにあります。
格闘技の絞め技などご存じな方でしたら首の絞め技が決まれば一瞬で意識が落ちることをご存じでしょう。
循環が脳と心肺に集中するために海水面にいて息を止めるのに比べて素潜りではより長時間呼吸を止めることができます。

低血圧症の人

低血圧症の人には特徴があります。
低血圧が原因か低血圧の結果か分かりませんが以下のような傾向が見られます。

精神科の外来診療で見る範囲で印象に過ぎないかもしれないことと特殊な疾患やはっきりした原因が特定されている場合は除くことをご了承ください。

  • まず若い人に多いです。
  • 歳を取ってくると改善傾向や症状消失が見られるようです。
  • 男性より女性に多いです。
  • 生理関連の不調がある人が多いです。
  • 線が細い人が多いです。
  • 筋肉も脂肪も少ない印象です。
  • 過去にスポーツなどでしっかり鍛錬しかことがない人が多いです。
  • 現在運動不足の方が多いようです。
  • 雨の日の前に頭痛になる人が多いです。
  • 漠然とした体調不良感、あるいは風邪をひきやすかったり、体にどこか不調感や疼痛や機能性疾患を持っている人が多いようです。
  • 冷え性です。
  • 冬は苦手です。
  • 事務職などあまり動かない座り仕事の人が多いです。
  • 元気やテンションは低めです。
  • 筋緊張性頭痛や首、肩、腰の張りなど筋肉症状が見られやすいようです。
  • 朝が弱いです。
  • めまいや立ち眩みが多いです。
  • 姿勢変化で発作性頻脈や起立性低血圧を生じやすいです。
  • 疲れやすいようです。
  • 自律神経失調と言われたり自分で思っていたりして実際に交感神経も副交感神経も過剰や過少になり健康感の減退につながることが多いようです。
  • 色白できめの細かい女性で言えば当芍美人のようなやや水分代謝が悪そうなむくみやすそうな印象の肌を持っている傾向があります。

低血圧症の治療

子供で問題になる起立成長性障害などの低血圧症は色々な要素を持ち複雑な場合が多いですので、ここでは単純で大人の場合の低血圧症の場合だけでお話しします。

薬物療法としてはメトリジンやリズミックなどの昇圧薬が使われることが多いです。
最初に処方して効かなくても容量をあげると効いたり、より強めの薬に変えることで改善を症状の訴えることが多いので血圧が上がれば改善するのでしょう。

特に基礎疾患もない医学や医療の注目を浴びにくい手血圧症の場合には体質や生活習慣、更にはこれまでどのように成長して身体を発達させてきたかという履歴的要素があるようです。
かといって別に子供時代にクラブや習い事で鍛錬していなくても大人になってから運動したりダイエット(食生活)を変えたり生活習慣を変えることで改善や症状消失は見られます。

ただそれが難しいのが現代です。

運動不足や寝不足や種々のストレスを改善することはとても難しいことは、高血圧、糖尿病、高脂血症などのメタボリックシンドロームや適応障害やうつ病などでそれらの効果が明らかになっていても急に運動したり睡眠時間を確保したりストレスをなくせないのと同様に低血圧症でも生活習慣を変えることは簡単ではありません。

更にはもっと根本的な問題もあります。

高血圧症が医療・医学で問題になるのは健康に害をもたらしかつ生涯寿命も健康寿命も短くするからです。

江戸時代や戦前のようにそもそも抗生剤もなく結核などの感染症も蔓延し人生50年くらいの寿命しかなければそもそもそういったことは問題にならず高血圧の方が元気で活躍しADL(activity of daily living:日常生活の中での活動度)もQOL(quality of life:生活の質)も高く有用だった可能性もあります。

低血圧症は逆で人生100年時代の現代では、若い間の健康感もADLもQOLも下げるかもしれませんが健康寿命と生涯寿命についてはもしかしたら向上させるかもしれません。

太く短く生きるか、細く短く生きるか、みたいな問題になるのかもしれませんが、こうなってくると単に医学に留まらない人生についての実存的な問題が関わってくるので個人的にも社会的にも哲学的な問題になってきます。

まだ科学で良く分かっておらず、そもそも科学では分からない問題かもしれません。

いかに生きるか、という個人の選択や個々人にあった治療の選択と言ったオーダーメイド治療の問題になるので、主治医や自分の大切な人たちと相談して慎重に決めていきましょう。